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 密告
 
 サクヤの部屋を後にしたアリサとヒデオは通路を並んで歩いていた。
 アリサは触れそうで触れない二人の手の距離にやきもきしながら、
「サクヤさん、大丈夫だよね?」と並んで歩くヒデオに尋ねる。
 ヒデオはそれには答えず周囲を見回し人がいないのを確認していた。
 その目は既にブーストモード、確変ktkr。
 チャーンス。
 今こそ、薄汚い泥棒猫どもを出し抜くチャーンス。
 アリサが一人ニヤニヤしていると、ヒデオがいきなり抱きついてきた。
「なっ! ヒデオいきなり何するんですか?」
 そう言うアリサだったがヒデオを拒むことはしなかった。
 アリサがいつも読んでいる少女マンガの大概は男の子が過激であり、強引であり、積極的だったため、それが普通なのだと考えてしまっていた。
 なにより、意中の相手に抱きつかれて不快感を覚える者などいまい。
 だが、それだけではなかった。
 もっと本質的な部分で、アリサは感じていた。
 この目の前にいる少年がひどく淡く儚げで、手を放せば消えてしまうのではないか、と。
 しかし、それはあくまで理性の部分であり、感情の部分では受け入れるだけでは満足できない。
 もっと多くのものを相手に対して要求してしまう。
 お互いの心臓の音が伝わる密着状態で、アリサの顔は上気し次の何かを求めていた。
 そして、それはもたらされることはなかった。
 ヒデオがアリサの耳元で囁いた言葉は、
「サクヤさんからは目を放さないでください。彼女は一人でも行動するつもりです。それと、今後君達の部屋には監視カメラ、盗聴器が設置されるものと思ってください。部屋やターミナルだけでなく、身につける衣服に至るまでおおよそ君達が触れる全てのものを疑ってください」という極めて真面目なもの。
 いや、まじめはいいんだ。
 うん、まじめは。
 でも、ここまで場を盛り上げといてそれはちょっとどうかな?
 散々期待させといておあずけとかどうかな?
 アリサは密着状態でヒデオにボディブローを放った。
「……ぐっ……」ヒデオは吐息を漏らし壁に寄り掛かる。「何でいきなり殴るんだ?」
「自分の胸に訊いてくださいっ!」アリサは怒鳴ると自分の部屋の方へ歩いていった。
 アリサの姿が角を曲がって見えなくなると、ヒデオの目の色が急激に変わる。
 白い闇のような測りきれない、相手に自分の考えを計らせない、あわよくば相手を謀ろうという地獄の淵のような目だった。
「リンドウさん、アーク計画は僕が潰しますよ」ヒデオはひとり呟いた。
 
 アリサと別れたヒデオはフェンリル極東支部にいる上層部の一人の部屋を訪れていた。
 秘書官には、
「第一部隊隊長川村ヒデオが緊急の要件で来た、と伝えて欲しい」と一言告げると簡単に中に入ることができた。
 今やヒデオと上層部とのパイプラインはかなりのものになっていた。
 そして、上層部もヒデオの能力を認めていた。
 そのヒデオが”緊急の用件”と言うからには、それは上層部にとっても”緊急”な問題であることなのである。
「どうかしたのかね?」
 ヒデオがドアを開けると部屋の持ち主である大柄な男が訊いた。
 ヒデオは音も立てずにドアを閉めると、
「突然の御訪問申し訳ありません。しかし、訪問理由が機密なので、誰にも聞かれる心配の無いあなたの部屋で話し合うべきだと判断しましたのでそこはご了承ください」小さく謝罪した。
「続けてくれ」男は机の上で両手を組んだままそう言った。
「雨宮リンドウが残したディスクのことは以前お話ししたかと思いますが」
「ああ、君が抹消せずに様子を見ていろ、と言っていたあれか」
「はい、それです。腕輪認証が必要なためずっと中身を確認できなかったのですが、先日腕輪を入手し中身を見ました。中には”アーク計画”というものに関する情報が書かれていました。ターミナルのログをチェックすれば分かると思います」
「君はアーク計画を知らないのか?」
「はい」
「ああ、そうだった。シックザール支部長には君のことを知らせてはいなかったな。てっきり君が彼からアーク計画のことを聞いているとばかり思っていたよ。後日君のことを私から伝えておこう」
(支部長もこっち側なのか)
「いえ、僕の存在は教えないでください。支部長にはどこか信頼できない何かを感じます。僕は今後もあなた達の直属の仕官として扱ってください」
「いいだろう」
 大柄な男は机の上のターミナルの端末を操作しログを確認する。
 しばしの沈黙が続いた後、男が口を開いた。
「確かに、橘サクヤの部屋のターミナルにログが残っているな。ということは、データを見たのは君一人ではないということだな?」
 ヒデオは頷く。
 男は額を手で覆うと、
「あらかじめ君に伝えておかなかったこちらのミスがあるにしても、アーク計画を知られてしまったのは君の失態だ」嘆息する。
「失態?」
 ヒデオは口角を数ミリ釣り上げると不敵に笑った。
「失態じゃあない。ログをよく見てください。橘サクヤの部屋のターミナルのログの直前に僕の部屋のターミナルのログがあるでしょう?」
 男は端末の画面を見て、それからヒデオを見て絶句する。
「君は分かっていてあえて見せたということなのか?」
 ヒデオは朗々と答える。
「はい。アーク計画というのが何なのかは分かりませんでしたが、雨宮リンドウの一件以降ちょろちょろと辺りをかぎまわるネズミが出て来たのも事実です。一匹ずつ潰していっても埒が明かないので、一斉駆除するべく餌を仕掛けました」
「……君は、敵には回したくないものだな……。だが、うまくいくのかね?」
「十分煽っておきましたから絶対に動きます。エイジス島の管理システムのバグを利用するという潜入手段を相手は取ります。ですから、いつ動くのか、それだけは知っていなければなりません。そこで彼女たち二人、サクヤさんとアリサの部屋やターミナルは勿論、衣服や神機にも監視カメラや盗聴器を仕掛けることを提案します」
 支部長がついているのなら僕がここまで言ってしまっても、彼女たちが殺されることはないはずだ。
 それより今は、アーク計画を支持しているという立場を確立しておくべきだ。
 僕のやり方でアーク計画を潰すにはアーク計画支持派を装っておくことが必要。
「そうか、礼を言おう。君のことは他の上層部の人間にも話しておこう。こちらの方が金よりも君好みだろう?」男は下卑た笑みを浮かべる。
 ヒデオはそれに笑顔で礼を言った。
 部屋から出ると呟く。
「まあ、実際敵なんだけどな……」

 ヒデオは両腕いっぱいにしるこを抱えて自分の部屋に戻ってきた。
 その足取りは鎖でつながれているかのように重い。
 罪悪感で押し潰されてしまいそうだ。
 ベッドに座りプルタブを片手で開けて、しるこをがぶ飲みする。
 しかし、どれだけ飲んでも、胸の、心の、苦さが落ちない。
 苦くて苦くて、
 重くて重くて、
 辛くて辛くて、
 苦しくて苦しくて、
 どうすればいいんだ?
 どうすれば楽になれる?
 思考は螺旋を描いて水底へと沈んでいく。
 僕は……僕は……。
 そのときドアがノックされた。
「私だ」ツバキの声だった。
「今ちょっと調子が悪いんです」
 ヒデオは虚勢を張って咆える。
 今の自分にはそれくらいのものしか残っていない。
「だから来たんだ。ターミナルで会ったアリサにお前の様子がおかしいから見てきて欲しいと頼まれたんでな」
「……そう……、ですか」
「入るぞ」
 ヒデオの覇気のない受け答えに焦れたのかツバキが入ってきた。
 ツバキはヒデオを一瞥すると、
「本当に酷い顔をしているな。大丈夫……なわけがないな」
 ツバキはソファーに腰を下ろす。
「何か悩みでもあるのか?」
「そんなんじゃあないですけど。ただ、自分のしていることに自信が持てなくなってしまって……。僕は本当に正しいことをしているんでしょうか?」
「何が正しくて何が間違っているかなんて誰にも分からない、などという陳腐な一般論はどうでもいいとしてだ、……お前が正しいことをしたかどうかはお前だけが知っていることだ。だからお前は選んだんだろう? 何かを成し遂げる為に別の何かを犠牲にしなければならないときが必ずある。それは避けることができないものだ。確かにお前は強い、お前は優れている。だが、お前も指揮官である前に十五歳の少年だ。どれだけ精神力が強くともその中にはどうしても脆い部分はある。だから、仲間を信じろ。自分を信じろ。お前は……誰にも負けない神機使いだ。進むのか、戻るのか、留まるのか、どれを選んでもお前は決して間違わない。それだけのものをお前は持っている」
「……そうですか。そうですね。そうかもしれません。ありがとうツバキさん、おかげで少し楽になりました。僕は僕の道を選びます」ヒデオはツバキの言葉に寂しそうに笑って答える。
 どれだけ暗くとも、たぶんその先に光があるのだから。
 
 

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