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 コミュニティのお題小説です。 テーマは「願い」

  詩詠いとaqua box    ――ウタウタイトアクアボックス――

「あなたに一つお願いがあるの」
 夕暮れの学校からの帰り道で、皐月は僕の目を覗き込むように首を傾げながらそう言った。
 なんだよ、と僕は言った。
「明日、一緒に水族館に行きたいな」
 美少女からのデートの誘いを断れるほどいい立場にいるわけではない僕は、予定が入っているにもか
かわらずに頷いてしまった。
 どうせ僕の抱えているトラブルなんてゴミとか石ころレベルのものだったし、いくらでも代替のきく
ものなのだ。
 だから、後回しにしてもいいと思った。
 だから、後からでもいいと思った。
 それは一つの見識の様式であり、認識の公式だった。
 どうでもいいものはいつも傍にあり続けていると、僕は思い込んでいた。
 僕にとって重要だったのは、
 彼女と一緒にいること。
 彼女と一緒にいられること、だった。
 それが僕にとっては一番大切なことなのだと僕は経験的に知っていた。
 皐月は灰色の影ともう赤に近くなってしまった夕焼けを縫いながら、
「明日晴れるといいな、ゾッカン」と言った。
「ゾッカン?」と僕は聞き返した。
「うん、ゾッカン。水族館だからゾッカン」
「誰もそんな略しかたしねえよ」
 それだとマックはナルドになる。誰もそんな略しかたはしない。
「そうかな?」
「そうだろ」
 皐月は僕との分かれ道に差し掛かると、
「また明日」と言った。
 僕はああ、と応えた。
 翌日、僕は15分前に待ち合わせ場所のバス停に行ったが、そのときには既に皐月が来ていた。
「悪い、待ったか?」
「ううん、3時間くらい」
「めちゃくちゃ気い遣うわ。そこは嘘でも普通、さっき来たとことか言うのがセオリーじゃないのか」
 

「でも、たった3時間じゃない」
「…………」
 ごめんなさい。
 水族館に行った僕は皐月に引っ張りまわされた。
 皐月はわあわあ言いながら興奮した様子で水槽に額をくっつけていた。
 昼前にイルカショーが行われる。皐月が最前列で見たいと主張したので僕はそれに従った。
 席に着く前に係りの人からレインコートを貸してもらった。
 サイズが小さい。そもそも高校生が最前列でイルカショーを見るということは、想定されてないよう
だった。
「大丈夫ですか?」と係りの人が言った。
「大丈夫です」と僕は言った。この状況で他の台詞を言える強者はいるのか? 美容院で髪を多めに切
られたときのような空気が周囲に立ち込める。
 皐月はイルカショーの間、ぼんやりとした目つきでイルカの絵を描いていた。皐月には時間が流体の
ように見えているのだろうか。描き終わってもスケッチブックを閉じもせずしまいもしない。
 僕は嫌な予感がしたのでスケッチブックを皐月のバッグに入れた。
 イルカの跳躍に合わせて僕は立ち上がると皐月の前に立ち彼女を庇った。
 予感的中。
 案の定、僕はドルフィンアタック(水しぶき)でびしょ濡れになった。
 僕たちは昼食を取るためにテーブルのあるエントランスホールに移動した。
 席に着くと皐月はジャーン、と言って、バッグから大き目の弁当箱を取り出した。
 中身はサンドイッチだった。
 僕は一切れ取り口に運ぶ。
 マヨネーズソースのお酢が利いていて美味しい。
「よくこんなの作る時間あったな。約束より3時間も早く来たんだろ?」
 皐月は再びジャーンと言うと、
「実はそれは一昨日作ったやつなんだよ」と胸を張る。
 じゃあ、まさか、この酸味は……アレなのか。
 もう食べちゃったよ。
「冷蔵庫に入れてないからパンもやわらかいでしょ?」
 そこは味よりも衛生面を重視して欲しかった。
 食事を終えた皐月は僕の服の裾で手を拭こうとした。
 僕は抵抗しなかった。
「いいの?」
「いいよ」
 既に僕の着ている服はイルカ臭くなっているので、これ以上は多少汚れたところで気にはならない。
 昼食を終えてからは僕たちはまだ見ていない残りの水槽を見て回った。
 皐月はイルカの絵を描いただけで満足してしまったらしく、スケッチブックをバッグから出さなかっ
た。
 最後のクラゲの水槽を前にして、
「絵、1枚だけでいいのか?」と僕は訊いた。
 皐月は頷くと、
「水槽って1つの世界だと思わない?」と言った。
 僕は鼻を鳴らすと、
「水槽なんて、ただの透明な檻だろ」と言った。
「マロンがないなあ」
「それをいうならロマンだ」と僕は訂正する。
「そんなことではコンチネンタルな乙女心を理解することはできないのだよ」
「センチメンタルな」
 どうしてコンチネンタルなんてマイナーな言葉を知っていて、ロマンやセンチメンタルなんてメジャ
ーな言葉を知らないのか。
「で、今日のお前の望みは何だったんだ?」
「なんとなくだよ。なんとなく、あなたとこういうところに来てみたかっただけ」
 皐月は具体的には何も教えてはくれなかったけれど、僕には彼女の言わんとしていることがわかった
気がした。

 追記にてあとがきがあります。


 詩詠いシリーズの続編です。

 少し長くなってしまいました。

 今回はネタの切れがいまいちだった感じがします。

 たぶんこれからも、詩詠いシリーズは続くと思います。

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この記事にコメント
No title
初めてコメントします!
ライトノベル風な、視覚にするとクリアな感じって印象を受けます。
10代のカップルってこんな感じでしょうか(^^)
女の子のちょっと変わった感じが好印象です。
From: 朔月 * 2010/03/05 21:58 * URL * [Edit] *  top↑
No title
あれ、なんか実体験に似てて涙出てきた……
From: 真野橋ヤツカ * 2010/03/05 22:05 * URL * [Edit] *  top↑
No title
トキワさんの書く文は独特な表現をされているので
読んでいて参考になるし面白いです^^
展開もとっても良くて好きですよっ

ただ「~と言った」が多かったのが少し気になりました
(素人の意見なんで無視でおーけーですよ~)
それでは!
From: つかっちゃん * 2010/03/06 00:19 * URL * [Edit] *  top↑
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